参考:
フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)
トランスファーファクター (トランスファー因子)はサイトカインの一種で、私たちの体を様々な病気から守ってくれるもののひとつです。免疫システムは、人間社会に例えるなら警察の様なものです。外部からの細菌などの侵入や、ガンなど自己細胞の内乱から身体を守る役割を持ちます。 私たちの体には、生まれながらにして免疫システムが備わっています。この免疫システムは、1兆個以上の細胞からなり、約1kgの重量を持つ組織ですが、その働きは大きく次の3つに分けることが出来ます。
Recognize (認識する) |
体内に侵入したバクテリアやウイルスなどの異物、およびガン細胞などのような変質した自己細胞を認識する。
|
Respond (反応する) |
体内に侵入したそれぞれの病原体や変質した自己細胞に個別に反応する。
|
Remenber (記憶する) |
体内に侵入した異物を記憶して、再度進入した時には、この記憶に基づいてすばやく対応、速やかに除去する。
|
これらの一連の働きの中で最も重要なのは、いち早く異物、変質細胞などを認識することです。それは、私たちの体の”敵”の動向を瞬時にキャッチすることが出来れば、すぐに狙いを定め、攻撃を仕掛け、撃退することが出来るからです。 私たちの体には、そうした免疫情報を伝達する物質があり、その数ある免疫情報伝達物質のなかでも、中心をなすのがトランスファーファクター(TF)なのです。
さらにトランスファーファクターは、自分の免疫システムに大学教育を与える様な役割も果たします。いわばトランスファーファクターは、免疫システムが最高のコンディションを保てるよう訓練する、名コ−チ、名トレーナといったところでしょうか。
初乳や鳥類の卵に含まれているトランスファーファクター!
生まれたばかりの赤ちゃんは、母乳だけが栄養源。母乳には炭水化物、タンパク質、脂肪、ミネラルなどの栄養素が豊富に含まれていて、それらが赤ちゃんの発育を司っています。 その母乳の中でも特異な母乳があります。それは、母親が生まれたばかりの赤ちゃんに最初に与える母乳、つまり初乳です。 この初乳には、免疫システムを作る物質、免疫グロブリンという免疫系タンパク質の抗体が含まれています。 免疫グロブリンによって、赤ちゃんは外敵から守られますが、残念なことにそれは、初乳にしか含まれていないために人間の免疫力は年々低下するばかりです。
免疫グロブリンは免疫システムを司る重要な物質ですが、これは「種」特有のタンパク質であり、異種間の互換性はありません。人間の免疫グロブリンは人間の免疫システムに作用し、牛の免疫グロブリンは牛の免疫システムに作用します。 赤ちゃんの栄養源を母乳から粉ミルクに切り替えると、大半の赤ちゃんにアレルギー反応が起こりますが、それは免疫グロブリンが種特有のものだからです。したがって、免疫グロブリンだけでは、免疫システムを維持することは出来ません。
しかし、最近になって、哺乳類の初乳や鳥類の卵には種を問わず、免疫グロブリン以外に免疫システムを司る物質が含まれていることが、わかってきました。その代表が「トランスファーファクター」です。トランスファーファクターは、最も古い免疫伝達因子のひとつです。これは、哺乳類や鳥類、比較的原始的な動物まで、すべての動物に存在します。 トランスファーファクターは種特有ではないため、牛の初乳や鶏卵に含まれているトランスファーファクターを人間が、口から取り込んでもアレルギー反応は出ず、しかも免疫システムを司る物質として有効に働きます。 こうして、免疫グロブリンによって作られた免疫システムをトランスファーファクターが引き継ぐことで、長期間にわたって高い免疫力を維持することが可能となりました。
では何故、この世紀の大発見が今日まで日の目を見なかったのか?
実は、このトランスファーファクターが発見されたのは、今から50年以上も前の1949年のことでした。当時は世界中で結核菌が猛威をふるい、まだ抗生物質がなかったため、結核で死ぬ人が後を絶ちませんでした。 世界中の医学者は、結核菌によって起こる感染病の原因究明に取り組んでいました。
シャーウッド・ローレンス博士もその中の一人でした。博士は、結核菌に感染して結核菌に対する免疫を付けていた患者さんの血液を、結核菌に感染していない人に輸血した際に、血液中のどのような成分が、どのようにして免疫物質を伝達するのかを調べました。 この研究の中で、博士は「免疫物質が、免疫情報を伝える物質により未感染者の体内に移動する」ことを発見しました。この免疫情報伝達物質を、博士は「トランスファーファクター(因子)」と名付けました。輸血によって結核菌に対する免疫を作ることが出来れば、結核の感染率は激減し多くの人命を救うことが出来ます。
博士のトランスファーファクターの発見は、免疫学的には画期的なものであり、人類学的にも大きな朗報となるはずでした。しかし、重要な働きが解明されたにもかかわらず、トランスファーファクターが臨床の現場で生かされることはなく、世紀の大発見は、なかなか日の目を見ることはありませんでした。 トランスファーファクターが活躍の場を与えられなかった最大の理由は、輸血と言う方法でしか免疫を得ることが出来ないことでした。血液型が不適合の場合は輸血をすることは出来ません。しかも、感染者と未感染者をコーディネートするのは、困難を極めます。 以上のことから、トランスファーファクターは、免疫強化物質としての特性が生かされないまま、いつしか忘れられた存在となっていました。
幻から現実になったトランスファーファクター!
”幻の免疫強化物質”として惰眠をむさぼっていたトランスファーファクターが、再登場したのは、ローレンス博士の発見から、実に40年後のことでした。 1989年、ゲイリー・ウィルソン博士とグレッグ・パドック博士の二人の研究者は、「血液だけでなく、初乳の中にもトランスファーファクターがあるのではないか」と考え、牛の初乳からトランスファーファクターを抽出することに成功し、特許を取得しました。
ようやく、トランスファーファクターが表舞台にたつ日が来たのです。世界中の科学者はこぞってトランスファーファクターの研究を始め、すでに3500以上もの論文が発表されています。
トランスファーファクターは種を問わず哺乳類の初乳や鳥類の卵に含まれていることが判明、したがって、牛の初乳や鶏卵から安定的で大量に抽出することが可能となり、かつ経口投与(食べる)できることから、”幻の免疫強化物質”から現実のものとなったのです。
トランスファーファクター の特徴
トランスファーファクターのユニークな3つの免疫特性 |
誘発因子 (誘導作用物質群) |
異物の侵入・自己の変質細胞(ガンなど)をすばやく認識、攻撃の「反応」若しくは「反応の準備」を行う。
|
抗原因子 (抗体特異作用物質群) |
異物の侵入・自己の変質細胞がおよぼす脅威の程度に応じて、免疫警察(細胞)に、攻撃の度合いを直接指示する。
|
抑制因子 (抑制作用物質群) |
花粉などアレルギー、自己細胞を攻撃する自己免疫疾患などの様に無害な物質に対する過剰反応(攻撃)を防ぐ。
|
トランスファーファクターは現時点において「最強の免疫情報伝達物質」と言えるでしょう。それは、トランスファーファクターが「誘発因子」と「抑制因子」と言う、相反する機能を併せ持っているからです。 つまり、免疫の低下に対しては「誘発因子」の作用によって免疫力を高め、アレルギーや自己免疫疾患のような免疫過剰反応には「抑制因子」が働き、免疫抑制を行います。
免疫システムのバランスを保つ上で誘発因子と抑制因子はお互いに欠かせないものです。しかし両者は正反対の働きをするため、免疫システムをバランスよく保つのは容易なことではありません。 この問題を解決してくれたのが、トランスファーファクターです。 トランスファーファクターは、誘発因子と抑制因子という相反する因子を兼ね備えているため、免疫不足の場合には免疫反応を誘発し、免疫過剰の場合には、免疫反応を抑制することが出来ると言う、免疫調整の特徴を持っています。 つまり、トランスファーファクターは、免疫システムを強め、免疫システムがより効果的に、またバランスよく働けるよう助けます。
|