「ガン細胞の基になる幹細胞が見つかれば、ガンを根治できるかもしれない」と思った、九州大学生体防御医学研究所の森正樹教授たちの研究は、今も続いています。
幹細胞とは?
体の様々な細胞を作る基になる細胞。幹細胞は、体内の決まった場所で特定の働きをする細胞に分化するものと、自らをコピーして自己増殖するものとがあります。
ガン幹細胞も通常の幹細胞と同様の性質を持っています。しかし違いもあります。大きな違いは、通常の幹細胞から分化した細胞が、最終的には分裂できなくなるのに対し、ガン幹細胞から分化したがん細胞は、引き続き分裂、増え続けるという点にあります。
ガン幹細胞発見の歩み
ガンを作り出すガン幹細胞の存在の仮説は、すでに40年前にありました。しかし、当時はガン幹細胞発見のための装置もなく、したがって手付かずの状態でした。
そんな流れが変わったのは、1997年、カナダのトロント大学のジョン・ディック教授らが、血液のガンである白血病から、世界で初めてガン幹細胞を発見したからです。
2003年以降、乳がんや脳腫瘍でも幹細胞と似た性質を持つ細胞が見つかり、その後、ガン幹細胞の研究は、一気に加速しています。
ガン幹細胞は、再発に関係している?
研究者によるガン幹細胞の発見は、ガンの再発を防ぐ鍵を握っていると考えられています。抗ガン剤を使用してガンを退治したとしても、ガンが再発をするのは、ガン幹細胞が、まだ生き残っていると考えられるからです。
実際研究の結果、抗癌剤によるガン幹細胞の死滅する割合は、ガン細胞の半分以下だったそうです。
ガン幹細胞が抗癌剤で死なないのは?
正常の幹細胞は、体を作る様々な細胞の供給源です。したがって幹細胞がなくなると生命そのものが脅かされることになるため、幹細胞は自分を攻撃する”毒”を排除する仕組みを自ら備えています。
ガン幹細胞は、正常な幹細胞の遺伝子が、何らかの原因で傷ついて出来たものと見た場合、このガン幹細胞にも、正常な幹細胞と同じ仕組みが備わっていることになり、自らを守るため、”毒”すなわち抗癌剤をうまく排除して、生き残ることができると言うわけです。
ガン幹細胞は転移にも関係している?
最近の研究では、ガン幹細胞からガン細胞が作られる過程で、転移に関係する多くの遺伝子が、活発に働いていることを突き止めました。ガン細胞がその病巣から、血管の中に移動、血流に乗って他の臓器に広がるために必要な遺伝子です。
またこの研究で、ガン幹細胞に放射線を照射すると、転移する能力が高い悪性のガン細胞が増えることも判明しました。
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